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仕事、暮らし、子育て、などなど。家族にとって考えなければいけないことは多い。でも正解はひとつじゃないし、同じじゃなくてもいい。状況の変化で環境も変われば、逆に環境の変化で、状況を変えることだってできる。
「気持ちのいい生活」「便利な生活」「ミニマムなライフスタイル」「自然との暮らし」、どれが良い悪いではなく、いまいるステージと、今後の「家族の豊かな時間」を考えたとき、その選択肢はいろいろとあるはず。Wicanでは、全国で様々な暮らしのカタチを実践する魅力的なご家族を取材し、多様な家族カルチャーのあり方をご紹介していきます。

たどりついたのが、海と山があるこの暮らし

自らを“好奇心の塊”と称する中村豪さん。「とにかく面白そうなことを見つけたらやらずにはいられない。興味があることをひたすら追求してきたら今の自分にたどりついたという感じ」と語る。住宅や店舗の内装を手掛けるインテリアデザイナーであると同時に、ドローンカメラマンとして第一線で活躍する中村さんは、鎌倉生まれの鎌倉育ち。生まれたときからすぐそばにいつも海があり、弟と一緒にサーフィンをはじめたのは14歳のとき。兄弟揃ってサーフィンに夢中になり、以来ずっとサーフィンが中心の人生だ。ちなみに、弟の中村竜さんはプロサーファーでもある。中村兄弟にとって生きることの軸がサーフィンであることは変わりがない。現在、鎌倉山と奄美大島に兄弟で家を共有し、拠点を鎌倉に置きながら、休みが取れると奄美で過ごす生活を送っている。と記すとまるで夢のような暮らしぶりだが、話を聞いてみると、ひとつひとつが自然の成り行きでありながら、中村さんにとっての必然であったことがわかる。

鎌倉山の高台に位置する中村さんの自宅は、目の前が谷となって大きく開け、緑生い茂る山里の風景が窓に広がる。自分で自宅を塗装中のため、足場が組んであるのも「進行形」である証。

ここには、中村さん家族と弟の竜さん家族、そしてお母さんもが一緒に暮らす現在ではなかなかめずらしい形の三世帯同居スタイルがある。それぞれ玄関は別でプライベートを保ちながらも、中では自由に往き来出来るよう繋がっている構造。家族仲がよい中村家ならではの同居スタイルだが、さすがに三世帯が一緒に暮らせるサイズの土地を鎌倉でとなると金銭面の上でも難しく、この土地の購入を決めるまで鎌倉中をほうぼう2年も探し尽くし、落ち着いたのが今の場所だったというわけだ。

もともとあった桜の樹を活かし、中央に中庭風の空間を配するなど遊び心あふれるデザインは、中村さんのインテリアデザイナーとしてのセンスが発揮されたものだろう。

もうひとつの奄美大島の家は、海のすぐそばという絶好のロケーション。5年前に土地を購入し、開放感あふれる平屋の家を建てた。奄美大島はサーファーにとって常時最高のコンディションの波がある憧れの島だ。そんな奄美の波を求めて昔からずっと通い続けているうちに、家を建てることを決めたという。

まさに開放的な奄美の家。やはり海辺には平屋がよく似合う PHOTO/ご本人撮影

「鎌倉にいるときは山の自然を眺めて、奄美にいるときは海を感じて。結果的にそんなメリハリがつく生活に落ち着き、気に入っています。だいたい鎌倉で海の目の前に住んだら、波が気になって仕事ができないしね(笑)。これでちょうどいい」。

鎌倉と奄美ふたつの家を往き来するバランスのよさを語る中村さん

それでも現実的な部分では、鎌倉の家と奄美の家を所有すること、つまりはダブルローンを抱えることに不安がなかったわけではない。仕事が忙しくて奄美に行けないことが続くと、本当に奄美の家を所有する必要があるのか?と自問自答。気持ちは揺れる。

ところが、そんな中村さんを後押しするかのように、気がついたら時代の風が追い風に変わっていた。まず、奄美に家を建てた後にLCCが運行するようになり、奄美までの交通費が格段に安くなった。また、ドローンカメラマンとしての仕事の需要が高まったことも大きい。そして、今回コロナ禍をきっかけとしてリモートワークが本格的に定着したことにより、世の中の価値観も大きく変わった。もはや、住む場所を東京圏内に定める必然性が見つからない時代になってきている。

豪さんと3人の娘さんたちは大の仲良し。妻のあきさんいわく「子供が4人いるよう」

ちなみに、インテリアデザイナーだった中村さんがドローンカメラマンとして二足の草鞋を履くこととなったきっかけもまた、サーフィンだ。サーフィンでハワイに行っていた弟が教えてくれたのだ。ドローン撮影した波の映像を見た中村さんは衝撃を受け、これだ!と直感的に閃く。すぐさまドローンを購入すると、もともと写真が好きだったこともありたちまち空撮の面白さに魅せられた。ここで、少しばかりサーフィン業界におけるドローンの登場がどれほど画期的であったかを説明すると、ビルの5階分とも20メートルを超えるとも表現されるハワイ・パイプラインの大波の撮影は人力では到底限りがあり、命がけと言ってもいいものだった。空撮のためにはヘリが必要だが経費的に大掛かりである上にローターの音や風圧が邪魔となる。そんな状況がドローンの登場により根本的に変わり、可能性が大きく広がった。しかも、一瞬にして。

そんなドローンを使って中村さんが捉える映像には、人生の大半をサーフィンを通じ海や風、波といった自然のリズムとともに過ごして来た人間ならではの感性がにじんでいる。まるで自然のエネルギーに飛び乗ってサーフィンするかのような躍動感あふれる映像は、本人が意識しているかどうかは知らないが、波乗りの真髄を知る人間の視点を通して語られる景色のように映る。鎌倉の山や海はもちろん、奄美の雄大で強烈な自然など、ドローン撮影のロケーションに事欠くことはなく、遊びではじめたドローンがいつしか仕事のオファーを受けるものへとつながっていったのは自然の流れだろう。

子どもたちへつないでいきたい、という想い

中村さんが鎌倉と奄美の家を持ち続けていきたいと思うその原動には子どもたちの存在がある。中でも一番お姉さんであるすずちゃんは、将来は奄美に住みたいと真剣に人生設計を描くほど奄美に心を奪われている。もともとボディーボードをやっていた妻のあきさんが去年からロングボードをはじめたことも大きい。あきさんにとって、それまでも奄美は自然豊かなくつろげる場所であったが、サーフィンに夢中になっている今、波乗りし放題の奄美での暮らしより素晴らしい場所は他のどこを探しても見つからない。家族全員がこんなにも奄美を大好きでいてくれる姿を見ることほど、中村さんにとって嬉しいことはない。

鎌倉と奄美を往き来する、長女すずちゃん(9歳・写真左)次女あいちゃん(6歳・写真右)三女しずくちゃん(3歳・写真中央)の三姉妹

すっかりサーフィンにハマってしまったという妻のあきさん

「感性豊かな子どもたちにとって、自然の中で過ごす時間がどれだけ重要かを考えると、奄美の家があって本当によかったと思います。大切なことはすべて自然が教えてくれるから。彼らが自分たちで触って、目で見て、匂いを感じて、生きていく上で大切なことを学び、生きる力をつけていってくれることが、何よりの宝だと思うんです」

奄美の家は、弟家族や母親と一緒に行くのはもちろん、鹿児島に住むあきさんの両親や友人たちが遊びに来たり、島の集落の人々との交流も含め、人が集まる風通しのいい場所として位置している。時代の追い風も助け、鎌倉と奄美の往き来を含め、インテリアデザインの仕事とドローンカメラマンとしての仕事のスケジューリングや配分など、ようやく自分の中でリズムが整ってきたところだそうだ。

鎌倉の家でも元気いっぱい

「いずれ、子どもたちが大きくなったら鎌倉も奄美も全部彼らにゆずって、彼らが好きなように使ってくれたらいいと思っているんです。そのためにも、ちゃんとつなげていけるように今は頑張らないと」と中村さんは笑う。

そんな中村さんの目下の悩みは、最近、あきさんがめきめきサーフィンの腕をあげていること。もちろん、サーフィンが上達することは喜ばしいことだが、これまで波の大きい日は当然中村さんがサーフィンに行くのが当たり前だったのが、レベルアップした今はどちらが優先的に海に行くか家族会議が必要となってきたのだ。

この日も、ひとりで海へと向かうあきさん

サーファーにとっていい波のときに海に行けないほど辛く悔しいことはなく、同じ家に住んでどちらか片方だけがその波を楽しめているのかと思うと、中村さんもあきさんも互いに悔しさ倍増だろう。が、それも長い目で見てみれば、また新たな楽しみのはじまりとも言えるだろう。子どもたちが大きくなり、持っているものを彼らに託したあとは、あきさんとふたり気ままに波を求めて旅する日がやってくるのかもしれない。どこまでいっても、サーフィンが軸となって人と人をつなぎ、想いを乗せて新たな波を追う、そんな人生が続いていくことは言わずとも本人が一番よく知っているのだろう。

中村豪さん

インテリアデザイナー/ドローングラファー。株式会社nadaの代表として店舗や住宅の設計設備を手がける傍ら、メディアや行政などさまざまな業界から依頼を受けて、ドローン撮影を行う。2018年には大河ドラマ「西郷どん」のオープニング撮影と劇中撮影を手がけ、オープニング制作を担ったメンバーとクリエーター集団「L.S.W.F」を立ち上げる。
インスタグラム:@gonakamura(https://www.instagram.com/gonakamura/?hl=ja)
L.S.W.F:https://www.lswf.co/

TEXT:MAYU KOBAYASHI
PHOTO:TAKUYA NEDA

 

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